日本で3年働いてお金を貯めては海外へ・・・また3年働いては海外へ・・・という暮らしを繰り返していた20歳台。
その一時期に、英語力をいかせる仕事、外国人と関われる仕事として、東京都内のホテルのフロントスタッフ(正社員)として働いていたことがあります。
ホテルといえばTVドラマ「ホテル」(高嶋政伸 主演)のような華やかなイメージがあるかもしれませんが、もちろん良いお客様(宿泊者)も多いですが、中にはとんでもないゲストもたくさんいます。
ン十年経ってもいまだに記憶に鮮明に残っている強烈な宿泊者(珍客)たちの思い出(体験談)を以下にまとめました。
バスタオル女(光る物 恐怖症)
夜、フロントに「バスタオルをもっともらえませんか?」という客室からの内線電話が入ってきました。ただ、この部屋の女性からは、さっきも同じような要求があり、リネン担当のスタッフがバスタオルを数枚、渡したところでした。
「部屋で何が起きているのか」不審だったので、確認のため、フロントスタッフの自分が部屋まで見に行きました。
そうすると、室内のありとあらゆる家具や調度品にバスタオルがかけられ、覆われています。
事情を尋ねると、女性は何やら「光り物恐怖症」らしく、夜、寝る時、少しでも何か反射するもの(光っていると感じられるもの)があるの、気になって寝れないそうです。
ただ、その部屋の現状では、外からの光も、もちろん、カーテンと併せて多数のバスタオルで隙間が埋められ、電気を消せば、完全に真っ暗になる状態だったのですが、それでもその女性は気になる、とのことで、ベッドの木枠やテーブルなど、とにかくありとあらゆる光りそうなもの(反射しそうなもの)をバスタオルで覆いつくしたかったようです。
あまりバスタオルを渡してしまうと、その日のストックが全部なくなってしまい、他のお客様のほうの需要に対応できなくなってしまうので、あとはシーツなどを余分に渡して、なんとか納得してもらいました。
外見はやはり、かなり神経質そうな、病んでそうな方でした。確か30歳後半か40歳台前半だったと記憶しています。
ピンクのパンツ1丁で逃げるフランス人男
ある日の昼間、ホテル勤務時に、震度3程度の地震がありました。日常茶飯事なので、「あ、地震かな。」程度で私もまわりのスタッフも、一般のお客さんも何事もなく、やり過ごしていたところ、突然、フロント裏にあるアラームが鳴り響きました。非常階段へ続く非常口などのドアが開けられると鳴るようになっているアラームです。
そこでフロントにいた私がフロント裏から、非常階段のほうへ出て見ると・・・
上から、かなり刺激的な蛍光色っぽいピンクのブリーフ一丁の、素足でほぼ素っ裸な外国人男性(50歳台)が、かなりパニクって駆け降りてくるではありませんか。
この男性はフランスから来たお客さんで8階辺りに宿泊していました。
男性に事情を尋ねたところ、「地震にびっくりして慌てて飛び出してきた。」とのこと。フランスでは地震を経験したことがないので、ちょっとした地震にもかなりビックリして動転してしまったようです。
「たいした地震ではない。大丈夫ですから。」と落ち着いてもらって、自分の部屋にお引き取りいただきました。
最近も以下のような報道がありました。
突然上から男性が…揺れでパニック 4階から飛び降り トルコで地震発生の瞬間
23日、トルコ北西部で発生したマグニチュード5.9の地震。人々が混乱する中、突然上から男性が降ってきた。パニックになり、地上4階から飛び降りたという。
https://www.youtube.com/watch?v=IEZXiBGQjSU
外国人は地震に対して耐性が無いため、日本人が想像もできないようなリアクションを取ってしまうようです。
室内を熱帯雨林化させるインド人ファミリー
ある日の夕方、フロントで働いていると、火災報知器が鳴り響きました。その火の元とされる部屋へ急行したところ、部屋の中は、熱帯雨林のごとく、すごい湯けむりで覆われて、部屋中がビチョビチョになっていました。
あまりの湿度で壁紙が一部、剥がれ落ちてきているほどでした。
その部屋は、インド人ファミリー(大人2名、子ども2名)が宿泊していたのですが、なにやら、
- エアコンの使い方もわからない(エアコンを使ったことがない)
- ユニットバス形式の風呂に入ったこともないので使い方もわからない
ということで、お湯を流しっぱなし、バスルームのドアも開けっ放しにして湯気が部屋中に充満し、かつお湯も風呂から部屋に一部流れだし、しかもエアコンも使っていなかったために、火災報知器が反応したようでした。
これ系の事件は、特にアジアなど発展途上国から来たお客さんに起こります。
このインド人ファミリーには、とりあえず新しい部屋を用意して移動していただき、熱帯雨林化した部屋は、しばらく換気と修繕のために売り止めとなりました。
深夜「助けてくれぇ・・・」館内に響き渡る声
夜勤で働いていた時、明け方の3時か4時ごろだったでしょうか。どこか遠くから、しかし確実にホテル館内から、男性の声で「助けてくれぇ・・・」というかすかな声が聞こえてきました。他のスタッフとともに、館内を探しまわったのですが、どうやらその声はエレベーター内から聞こえてくるようでした。しかし、エレベーターには誰も乗っていません。
結局、その声は聞こえなくなり、しばらく経った朝6時頃、もみ合ってる男性2人が、上の客室からフロントまで降りてきました。
どうやら、「助けてくれぇ・・・」の声は、宿泊者である古美術商の男性(老人)が、エレベーターの近くの室内(7階あたり)から発していたようで、それがエレベーターシャフトの空洞を通して、館内に響いていたようでした。
借金取りが、この古美術商の男性の部屋までやって来て、もめごとになり、それで古美術商の男性が叫んでいたようです。
ホテル側としては、警察を呼んで、とりあえず男性はチェックアウトしていただき、後は交番でお話していただくようにしました。殺人事件などに発展しなかったのは幸いでした。
部屋を占拠する〇〇〇な世界の人たち
ある時、〇〇〇な世界の人たちが、ホテルの1室に居座ってしまったことがありました。どうやらその組の中堅どころの幹部がお泊りになられたようです。宿泊代はちゃんと払ってはいるのですが、宿泊延長を繰り返し、なぜか部屋のドアは24時間いつも開けっぱなし。常に大量のタバコの煙がその部屋からフロアに流れ出し、しかも組の若い衆が多数、出入りするような状態になってしまいました。借りてる部屋は1室だけですが、そんな方々が常時出入りしているようでは、当然、そのフロア全体は、他の一般のお客さんには貸し出すことができません。
3週間ほど居座りが続いたところ、ようやくホテルの支配人が直談判に行って、数日後には出ていっていただくことになりました。
が、直談判から帰って来た時の、支配人の青ざめた顔、そして何を話して何があったのか?は決してホテルスタッフには話してくれることはありませんでした。
アポなし乱闘
これはホテル「あるある」で、どこのホテルでもありがちな話ですが、予約をしてないのに、「予約した」と言ってチェックイン(宿泊)しようとする人は結構います。それは故意であったり、違うホテルを予約したのにその人の勘違いであったり、原因は様々です。
ある日、夜23:00頃になり、その日の宿泊予定者もほとんどチェックインが済んだ頃、これまた〇〇〇な世界の組の下っ端らしき格好の若い男性がホテルに入ってきました。
名前や電話番号を聞いても予約名簿には該当者なし。
その旨伝えると、「今日18:00頃電話で予約した。」と言うのですが、当日はすでに4,5日前から満室で、当日に電話予約を受け付けることは絶対なく、明らかにこの人物の嘘か間違いであることが、こちらには分かります。
また、実際、その日はもう予約で満室だったので、「予約もなくご宿泊できない」旨、丁重に伝えると、その男性は暴れ出し、フロント周辺のあらゆる物を破壊し始めました。
挙句にはフロントのカウンター上まで飛び乗ってきて、ガラスの敷居やペン立てなどを破壊し、フロント裏の事務所まで押し入ってきそうになったので、スタッフ数人で何とか取り押さえ、警察に引き渡しました。
幸い、勤めていたホテルは、斜め前に24時間警官が常駐している交番があったので、ラッキーでした。
私にケガなどはありませんでしたが、夜勤専門の契約社員のおじいちゃんスタッフの眼鏡が乱闘中に破壊されていました。
その翌日の夕方頃、その暴れた人間のボスらしき人から電話があり、「うちの若いもんが迷惑をかけた。」と謝罪が支配人宛にあったそうです。
ちなみに、ホテルによっては、全室売り切ることをせず、(部屋の不具合等に備え)予備の部屋を設けているところもありますが、私が勤めていたホテルは、まだ新しく設備の故障などが少なかったため、全室売り切ることをモットーとしており、稼働率は100%を超える日もありました。なぜ稼働率が100%を超えるか?というと、たまに宿泊せずに諸事情で早々にチェックアウトする客がいるため、その部屋をすぐに清掃&作り直して、別のお客に売るというW売りをすることがあるからです。
その他のトラブル
上記以外にも、細かく雑多なトラブルは数えきれないほど存在します。部屋を破壊する米軍兵
宿泊客によって部屋を破壊される(チェックアウト後に判明する)、というのもよくあります。私が勤めていたホテルの近くに、アメリカ人・・・特に政府や米軍関係者専用のホテル・・・基本的には日本人は泊れず、入館するのにパスポートや身分証提示を日系の米兵に求められるホテル・・・があり、そこのホテルが満室の際、よくうちのホテルに米政府関係者や米兵らが流れてくることがありました。
ある日の夜遅く、Walk In(ウォークイン/予約なし)で米兵男性2名がやってきて、「(その米国系某ホテルが)満室だったので、ここのホテルを紹介された。泊まれないか?」とのことで、ちょうど空室があったので、宿泊させました。
しかし翌日、チェックアウト後に清掃スタッフがその部屋を訪れると・・・部屋の壁にはパンチで開いたような穴があり、酔っぱらって暴れたような痕跡が、部屋の至るところに残されていました。
特に若い米兵は、パワーが有り余っており、ハメを外しやすいので、こういうことがよく起こる傾向があります。米兵は多い街のホテルでは「あるある」な事件と言えるでしょう。
禁煙フロアだけど喫煙
これもよくある話ですが、禁煙ルームを希望してチェックインしたのに、なぜか部屋でタバコを吸う人がいます。そのフロア全体を禁煙フロアにしてあるので、1室がタバコを吸うと、すぐ廊下などで他の客がタバコを感知してフロントに通報が入り、バレます。禁煙フロアのステイ客は、タバコのちょっとした臭いに敏感なのです。
こうしたケースでは、まず、すぐ喫煙をやめるよう注意するのですが、但し止めてもらったところでまた吸う確率が高いので、空室があれば喫煙ルームに移動していただくのが大鉄則です。
しかし、禁煙ルームで一旦、タバコを吸われてしまうと、部屋に臭いが染みついてしまい、臭い消しのために数日~1週間程度はその部屋が売れなくなってしまい、ホテル側は損失を被ります。
夜勤で白血球に異常が生じるケース
これは客ではなく、ホテルで働く人間に起こった話ですが、フロントスタッフの先輩(男性・当時30歳手前頃)が、夜勤が3回ほど続いたあと、体調を崩してしまいました。病院の診断では、白血球数に慢性的な異常が生じているらしく、医者が言うには夜勤が原因なのでは?とのことでした。そのため、その先輩は、その後は日勤にまわされ、フロント業務は昼のシフトだけ、プラスその他総務的な雑務担当へと配置転換させられました。結果、その後は白血球に異常は生じることはなくなったようです。
私は幸い、夜勤で変になったことはありませんが、夜勤で健康を害する、というのは、看護師その他、夜勤で働く職業にはよくあるケースです。
ホテル勤めで学んだこと
1日数百人が出入りするホテルなので、その他、数え切れないほどの良い事・悪い事がありましたが、総じて、良い経験になった、と言えます。 と同時に、やはり自分にとっては、ホテルはずっと長居するべき(勤めるべき)仕事でもないようには、感じました。 ホテルで働いて感じたことは、- 器の数が決まっている商売はしないほうがよい
- 在庫を抱える仕事はしないほうがよい
- 人の物理的な身体の移動を伴う商売は効率が悪い
といった点です。
1.器の数が決まっている商売はしないほうがよい
「器の数が決まっている商売はしないほうがよい」というのは、言い換えると「丼の数が決まっている商売はやめたほうがよい」とも言われている表現ですが、要は、ホテルの客室のように、売れる物の数(提供する製品の数、サービスの数)が決まっている/急きょ増やせない商売は、できるだけ避けたほうがよい、という意味です。例えば、ホテルは全300室あったとすれば、どんなに突然、需要が増加したとしても、その300室以上を売って荒稼ぎすることができない、例えば臨機応変に部屋数を1000室に増やしてがっつり稼ぐことができない、ということです。
ホテルでは時期によっては予約が殺到し満室続きの時があったり、その日の気象条件によって(大雪等で交通網が寸断された時など)客が押し寄せ、部屋数が足りなくなる時があります。しかし、急には部屋数を増やすことはできません。
ホテルという性質上、かなりの利益を取り損ねてしまうことになるのです。
一方、客が少ない時には部屋数を減らして建物を縮小して家賃・地代を臨機応変に削減できるわけでもありません。
その意味で、部屋数(器の数、丼の数)が決まっている商売は、あまり儲からない、リスクがある、ということを学びました。
2.在庫を抱える仕事はしないほうがよい
次にホテルから学んだことは、これも前述の「丼の数」に関係しますが、「在庫を抱える仕事はしないほうがよい」(在庫はなるべく抱えないほうがよい)ということです。在庫とは、ホテルで言えば、部屋・建物などがそれに該当します。
こうした在庫がたくさんあるほど、巨大であるほど、風向きが少し変われば、損失へとつながってしまいます。
例えばホテルでは、「老朽化」が避けられません。できてから2,3年以内の新築ホテルならいいのですが、完成した途端に、どんどん部屋はどこそこが必ず悪くなっていき、メンテナンスが必要となります。
部屋という在庫の維持に、多額の費用が掛かるのです。
逆に在庫の数(固定費)が少ないほど自由度は増し、倒産リスクも避けられます。
在庫の数が少ない仕事は何か?というと、無形の「情報」を扱う仕事が挙げられます。肉体労働や単純労働よりも精神労働であればあるほど、稼ぎはよくなります。
そんなことをホテルで自分の労働を時間で切り売りして働きながら、感じていました。
この学びから、「在庫を抱えず無形の情報を売買することで稼ぐ」という、基本、パソコン1台で成り立っている現在の自分の稼業形成にかなり役立っています。
3.人の物理的な身体の移動を伴う商売は効率が悪い
あと「人の物理的な移動を伴うことで稼ぐのは効率が悪い・リスクが高い」というのも、ホテルで働きながら常々痛感していました。ホテルというのは人が移動してきて宿泊しないと利益が発生しません。
基本的に、「人」というのはトラブルの塊です。しかも、移動にもトラブルは生じやすいです。人と関わる時間を少なくすればするほど、リスクを軽減します。
こうした不確定な要素から商売を成立させるには、
- 回転率を上げるか、
- 単価を上げるか、
の二択になるのですが、ホテルというのは、前述の「器の数」で述べた通り、「回転率を上げる」のはなかなか難しく、回転率を上げたとしてもすぐ限界に達します。
では単価を上げられるか?というと、確かに高級感を出してバカ高い宿泊料を設定しているホテルは存在しますが、値段が高い部屋というのは、回転率は下がるのが常です。
差別化が難しいのもホテル経営の難点の1つです。
以上、主に1~3の理由等々により、また、海外に旅に出ることになったこともあり、私はホテル業への関わりは3年で辞めましたが、やはり働きながら「身をもって体感しての学び」というのは、大学や大学院など座学で学ぶよりも現実的で、吸収率も違います。
そして若い頃に一貫性のない仕事を転々として得た経験が、不思議と今のなっては点と点がつながり、現在の仕事に生きています。
まさに、スティーブ・ジョブズが言うところの ”Connecting the dots”(コネクティングドッツ・・・点と点がつながる)です。
そうしたことを身をもって学べた、という点ではたかだかサービス業のホテルでも価値があり、現在の自分にいきているので、「人生に無駄なことはない」と言えるのかもしれません。
「やりたいことが見つからない」「自分が何に適しているのか分からない」といった人は、逆に「やりたくないこと」をただ避けていくという消去法路線で生きていけば、最終的には、すべての点と点(経験と経験)がつながって、結果、「やりたかったこと」を創出し、自分の居場所に自然とたどり着くはずです。
こんな言葉があります。
「これでいいのだ」
何が起きても動じなくなる7文字の言葉
幸せと自己実現の心理学 / 野口嘉則
https://www.youtube.com/watch?v=D-_PrtKiV7g
似たようなニュアンスの言葉に、
Let it be.
あるがままに。自然に任せておけ。放っておけ。
She will be right.
彼女は正しいだろう・・・彼女とは神とか自然を意味し、万事OK,自然に任せておけ、とか"No problem"(問題ない)とか"everything will be OK"(万事順調)と言った意味。
や、
Things will take care of themselves.
物事は勝手に落ち着く。
といったものがあります。
人生、気張って生きなくても、なんとなく無難に生きていくだけでも、自然と幸福に落ち着くものです。